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高森明勅
2013.4.27 06:52

憲法96条の改正に反対する

憲法96条の改正、つまり憲法改正の発議要件の緩和が、
にわかに来る参院選の大きな争点として、浮上してきた。

改憲論者の中には、長年の念願がついに実現しそうだと、
ワクワクしている向きもあるかも知れない。

私自身、14歳(!)以来の改憲派だ。

だから、もう40年以上、
一貫して改憲を望んで来たことになる。

だが率直に言って、
この度、安倍首相が目指している96条の改正には、賛成出来ない。

顧みると、この憲法改正条項だけをまず改正しよう、
という「変化球」的な提案は、
もう20年以上前に、今は亡きA先生が
ミニコミ誌『小日本』に匿名で提案されたのが、
恐らく最初だったのではなかろうか。

その頃から漠然と違和感を覚えていたと思う。

私が賛成出来ない理由を、簡単に列挙しておく。

(1)改憲のハードルを低くすることは、
民主主義の「暴走」に歯止めをかける“立憲主義”そのものを、
堀り崩してしまいかねない。

教科書的には、憲法は国家権力を縛る規範と説明される。
だが三権の中、内閣は法律に従って行政を司り、
裁判所は法律に基づいて紛争や訴訟に対して判断を下す。

それらが依拠する法律そのものを作るのは、
「国権の最高機関」である国会だ。

だから、憲法の制限が最もストレートに及ぶのは、
国民の投票で選ばれた議員によって構成される国会だ。

この国会が、国民の一時的な熱狂に促されて、
自由や権利を抑圧する立法などを行わないように制限するのが、
憲法の大切な役割だ。
ところが、国会での発議要件を緩和すると、
その歯止めが効きにくくなる。

(2)改憲手続きにおいて、間接民主主義(国会での審議、議決)
ではなく、直接民主主義(国民投票)に
重点が置かれるようになることは、
一般的に言って、熟慮や冷徹な理性に基づくのではなく、
大衆的な熱狂による改憲の可能性を大きくする。

大衆的熱狂は、しばしば国家にとっても、
個人にとっても、破滅的な選択をする場合がある。

しかも、国民投票法には最低投票率の規定がない。

加えて、投票総数ではなく、
有効投票の過半数の賛成で改正が行わなわれることになっている。
よって、ごく少数の賛成でも改正が実現し得る仕組みだ。

組織票の影響もかなり大きなものになろう。

改憲派は、主に9条の改正を念頭においているはずだ。

しかし一方で、第1章の天皇条項についても、
同様に変更が容易になることの危険性について十分、
警戒しているようには見えない。

(3)9条の改正を目指す場合、
これまで「国防」に関心を持たず、ひたすらアメリカに依存し、
しばしば軍事そのものを敵視するような国内の風潮、
戦後的な価値観それ自体の克服を課題にしなければ、
憲法の条文だけを変えても、
確かに自衛隊への無用というより有害な法的制約は
解除されるだろうが、
それだけで十全な国防体制が確立するかと言えば勿論、
そうではあるまい。

改憲のハードルを低くして、
国防論争を回避するような姑息なやり方では、
むしろいつまでも戦後的な価値観を引き摺ることになりかねない。

(4)改憲の焦点は、戦後の従属的「半人前」国家から、
自立した「一人前」の国家に転換することにあるはずだ。
しかるに改憲のハードルを低くするやり方は、
そうした肝心の国家像そのものの転換を視野から遠ざけ、
問題を自衛隊をめぐるあれこれの制度上の不備の是正だけに、
矮小化しかねない。

今の改憲手続きのままでも、
9条の改正は決して不可能ではないし、
そのことから逃げるべきではない。

参院選でせっかく改憲を争点にするのであれば、
国防の重大さを訴え、
まっすぐに9条の改正を目指すべきではないか。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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